5月の下旬、双翅目の調査をしに湿地とクヌギなどの小さな雑木林の環境が混ぜ合わさったような場所に赴いたところ、ハチモドキハナアブ Monoceromyia pleuralis (Coquillett)に出会えました。本種はハナアブ科に属する種であり、オオフタオビドロバチ Anterhynchium flavomarginatum (Smith)によく似た姿をしています。本種はクヌギなどの樹液に集まる習性があり、樹皮下に産卵するようです。本種は大型で目立つ種であるにもかかわらず、目撃や採集される個体数が多くないため、いくつかの都府県のレッドデータブックに掲載されています。

ハチモドキハナアブが含まれるハチモドキハナアブ族 Cerioidiniには、本種の他にヒサマツハチモドキハナアブ Ceriana japonica (Shiraki)、キタヒサマツハチモドキハナアブ C. nigerrima Violovitsh、ケブカハチモドキハナアブ Primocerioides petri (Hervé-Bazin)、チャイロハチモドキハナアブ Sphiximorpha rachmaninovi (Violovitsh)の4種が日本から記録されています。前者に比べ、これら4種の記録が少ないため、より希少な種であると考えられます。ヒサマツハチモドキハナアブとケブカハチモドキハナアブは訪花した、あるいはケヤキの樹液周辺で確認された事例があり、チャイロハチモドキハナアブも訪花事例に加え、樹液の出たヤマナラシ樹幹を飛翔する個体が確認されているようです。これらのことから、本族の種の生活史は樹液と関りがあるものと推測されています。
また、本族の種に加え、ハナアブ科のスズキベッコウハナアブ Volucella suzukii Matsumuraも薄暮の時間に樹液に集まることが知られています。樹液にはその他の双翅目昆虫類、カブトムシやクワガタムシなども集まり、他の昆虫目当てで訪れた際に上記のような種を確認できる可能性があるため、思わぬ発見が得られることもあると考えられます。なお、樹液にはスズメバチ類も集まるため、調査に危険が伴うことも認識しておく必要があります。

参考文献
市川俊英・大原賢二 (2009) ケブカハチモドキハナアブとヒサマツハチモドキハナアブ(双翅目,ハ
ナアブ科)の成虫の行動.香川大学農学部学術報告,61: 1-10.
大生唯統・松井悠樹・市毛勝義(2024)稀種チャイロハチモドキハナアブの中国地方における初記録.昆蟲(ニューシリーズ),27:39-40.
大原賢二(2014)Ceriana nigerrima Violovitsh(Diptera, Syrphidae)の日本からの記録.はなあぶ,37:88-91.
田悟敏弘(2018)ハエ目.埼玉県環境部みどり自然課(編),埼玉県レッドデータブック動物編2018(第4版),pp. 175-192. 関東図書.
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